漆 喰

漆喰

屋根漆喰の劣化

本来、漆喰は瓦を固定する為の接着剤的な役割と外観を整えるための観賞的な役割を担ってきました。
漆喰には粘着性や吸湿性がありますが、年月が経過するとだんだん硬化していきます。
そして硬化が始まりだしてから地震や台風や気温変化などの影響を受けると、剥離したり欠落したりしてしまいます。
漆喰が剥離したからすぐに雨が建物内に浸入するという訳ではありませんが、放置しておくと葺き土の流出が始まってしまいます。

漆喰が劣化したまま放置しておくと下記のようなトラブルが生じることがあります。
  • 葺き土が流出して、瓦が浮いたり擦れたり外れたりする。
  • 雨水が小屋裏(屋根裏)や室内に浸入する。
  • 葺き土に雨水が滞水しやすくなり、カビや苔が発生する。
  • 欠落した漆喰が軒樋を詰まらせる。
  • 害虫や害鳥が浸入しやすくなる。(特に雀口)
漆喰の補修方法も劣化状況や立地環境や施工条件や予算によって複数あります。 大別すると下記のように分類できます。
  • 瓦の葺き替え 下地材と屋根瓦と葺き土を撤去して瓦の葺き直し(葺き替え)と漆喰を施す。
  • 部分な瓦(棟)の葺き替え大棟などの経年劣化しやすい部位の瓦と葺き土を撤去して、その部分を葺き直す。
  • 漆喰の塗り直し 現在施されている漆喰のみを撤去して、新しく漆喰を塗り直す。
  • 漆喰の上塗り 現在施されている全ての漆喰の上から、漆喰を上塗りする。
  • 漆喰の部分的な上塗り 損傷の激しい漆喰の上からのみ、漆喰を上塗りする。

御覧頂いても御理解頂けると存じますが、上の方が高額で下に行くほど低額になります。
また漆喰の施工方法も1度塗りで仕上げる場合と2度塗りする場合などがあります。
更に、漆喰の種類は本漆喰(消石灰が原料)以外にも、様々な調合漆喰として販売されています。
既存の漆喰に上塗りをすると剥離しやすいし風雨にも晒されやすいので、劣化や損傷も早くなります。しかし、数年後には建て替える予定や引っ越す予定や更地にする予定がある方は、それでも十分だと思います。
費用対効果を考えて、御自身の生活環境に応じた対策を御検討下さい。

1:鬼(鬼首・鬼巻)漆喰の劣化や損傷

鬼瓦とは棟の端に取り付けられている大き目の象徴瓦(模様や家紋が刻まれている)のことです。
通常は大棟や隅棟や下り棟の先端に取り付けられています。
そして鬼漆喰は漆喰の中でも一番経年劣化が進行しやすい箇所の1つです。
巴漆喰や三日月漆喰や雀口漆喰などは、直接雨が当たりにくい場所に施されていますが、鬼漆喰は風雨の影響をまともに受けてしまうからです。
鬼漆喰の劣化進行状況は地上からでもある程度判断できますから、まずは御自身の目でチェックしてみて下さい。

鬼瓦の漆喰に亀裂
鬼瓦
鬼瓦
鬼瓦
鬼瓦
鬼瓦の漆喰が欠落

2:棟尻漆喰(鬼尻漆喰)の劣化や損傷

屋根の端から端まで大棟が繋がっている場合は両端に鬼瓦を使用しますが、屋根の途中で棟が切り替わる際に通常鬼瓦は使用しません。
鬼瓦は建物の外に対して厄除けや御守りの意味合いもあるので、建物側の端には使用しないのが一般的なのです。
また鬼瓦は棟の『顔』の役割も担っているので、棟の終わりを棟尻とか鬼尻と呼びます。

棟尻は板金や漆喰で収められていることが多く、鬼瓦と同様に風雨の影響をまともに受けてしまう個所です。
最近では漆喰よりも強度や耐久年数や施工面から、ガルバリウム鋼板やステンレス板金などで仕上げるケースも出てきています。

棟尻の漆喰が劣化
棟尻の漆喰
棟尻の漆喰
棟尻の漆喰
亀裂が発生
棟尻の漆喰

3:三日月(面戸・棟下)漆喰の劣化や損傷

棟の台土を覆い隠すように塗られている漆喰を面戸漆喰(三日月漆喰)と呼びます。
土葺き屋根瓦は葺き土と呼ばれる粘土質の土で葺かれています。
葺き土は棟(大棟や隅棟など)を積むための『棟積み葺き土』と、屋根の平面部の瓦(日本瓦や桟瓦)を葺く為の『地葺き土』の2種に大別されます。

更に『棟積み葺き土』は、土台になる台熨斗瓦を葺く為の『台土(土台用の葺き土)』と、割熨斗瓦や天熨斗瓦や冠瓦(雁振瓦)を積むための『棟土(棟用の葺き土)』に分けられます。
三日月漆喰は葺き土(台土)が流出しない為の土留の役割をしています。
三日月漆喰が劣化してしまうと、粘着力が低下してボロボロとこぼれ落ちるようになってきます。漆喰が剥離してくると直接葺き土に雨が当たるので、葺き土の流出が軒樋(雨樋)を詰まらせる原因にも繋がってきます。また葺き土や三日月漆喰に雨水が滞水するようになると、苔や黴の発生原因にも繋がります。

三日月漆喰
三日月漆喰欠損
三日月漆喰の欠損
三日月漆喰の劣化
三日月漆喰
面戸漆喰

4:巴漆喰(丸巴漆喰)の劣化や損傷

棟や軒の先端に取り付けられた瓦を巴瓦(ともえ瓦)と呼びます。
先端部分に巴紋(太鼓に描かれている文様)が描かれた丸瓦のことで、火事にならない為の厄除けや御守りの意味合いも込められて設置されています。
一般的に巴瓦というと棟の先端に取り付けられている棟巴瓦(棟丸巴瓦)を指しますが、他にも巴瓦には軒の先端に据えられる軒巴瓦や、隅棟の先端に据えられる隅巴瓦等が存在します。

巴漆喰は葺き土が流出しない為の土留の役割をしています。
巴漆喰が劣化してしまうと、粘着力が低下してボロボロとこぼれ落ちるようになってきます。漆喰が剥離してくると直接葺き土に雨が当たるので、葺き土の流出が軒樋(雨樋)を詰まらせる原因にも繋がってきます。また葺き土や巴漆喰に雨水が滞水するようになると、苔や黴の発生原因にも繋がります。

巴漆喰の欠落
巴漆喰が落下
経年劣化

5:雀口漆喰

雀口は瓦屋根の軒先と広小舞の間に存在する三角形の隙間のことです。
雀が巣を作るスペースとして利用することから、雀口という名称が付けられました。
この雀口は雀以外にもコウモリや蜂や害虫などにも利用されてしまいます。
そして巣作りの為の小枝や雀の糞や死骸が軒樋に溜まり、雨水をオーバーフローさせたり詰まらせたりする原因にもなっています。

その雀口を塞いでいるのが雀口漆喰です。雀口漆喰は雀や害虫の侵入を防いだり葺き土の流出を防止したりする役割があります。
雀口漆喰が欠落してしまうと害虫やコウモリ等の浸入経路を設けてしまうだけでなく、欠落した漆喰が軒樋を詰まらせてしまうこともあります。

最近では雀口を漆喰ではなくガルバリウム板金やステンレス板金で覆う方法や、樹脂製の面戸を取り付ける方法が主流になりつつあります。

普段見落としがちな場所ですが、軒樋と瓦の間にきちんと白い漆喰が塗られているか否かをチェックしてみて下さい。

雀口漆喰が軒樋に落下
雀漆喰の欠落
漆喰の欠落
漆喰の欠落

6:取合い漆喰

漆喰は防水性があるだけではなく一定の通気性や防火性があるので瓦の納まりに使用されてきました。つまり住宅が呼吸する(換気する)ためには、非常に有益な素材なのです。
ある程度の雨水を葺き土に浸入してしまっても、空気の乾燥した日に漆喰から水分を排出出来る仕組みになっているのです。

しかし、そんな有益な漆喰も経年劣化により徐々に機能は衰え、防水性能を保てなくなってしまいます。 漆喰の劣化を見抜くポイントとしては、

  • 漆喰の退色や黒ずみが生じている。
  • 漆喰の欠損や欠落(葺き土が確認出来る状態)がある。
  • 漆喰に苔や黴の発生している。
  • 漆喰にヒビ割れや亀裂が発生している。
  • 樋や瓦に漆喰の破片が落ちている。
  • 等の状態になっていたら、漆喰を塗り直すタイミングだと考えて下さい。

住宅の立地条件や住宅環境や施工方法などにもよりますが、目安として漆喰の塗り替え時期はだいたい12~15年くらいです。

葺き土の流出
漆喰に発黴
漆喰が欠落

7:瓦止め漆喰

漆喰には吸湿性と粘着性があるので、瓦の固定や補修材料としても使われてきました。
しかし漆喰は徐々に硬化してしまい、剥離したり欠落したりしてしまいます。
硬化してしまった漆喰は雨樋を詰まらせる原因にもなりますし、落下する危険性もあります。
古くなってしまった漆喰は早めに取り除き、新しく漆喰を塗り直すか別の方法での瓦止めを施すことを御勧めします。

経年劣化
経年劣化により
経年劣化により

8:漆喰の流出

欠落してしまった漆喰は雨樋を詰まらせる原因にもなりますし、落下する危険性もあります。
古くなってしまった漆喰は早めに取り除くことを御勧めします。

漆喰の流出