和 瓦

和 瓦

屋根瓦の劣化診断

屋根瓦は主に下記の4種類に分類されます。
  1. 陶器系 粘土で作った瓦を焼き上げて乾燥させて作ります。耐久年数は非常に長く50~100年以上持つとも言われている。重量は40~50㎏/㎡くらいなので、非常に重く価格も安くはないが雨風に強いうえに断熱性も高いので日本の気候風土に適しています。 釉薬瓦(表面に釉薬を塗って仕上げる) いぶし瓦(素焼きのまま)
  2. セメント系 セメントと骨材と水を混ぜたあと乾燥させ 厚型スレート瓦 セメント+硬質細骨材+水で コンクリート瓦(セメント+砂+水)
  3. スレート系 スレート瓦は陶器系の屋根に比べて施工が簡単で価格も安いですが、7~10年ごとの定期的な塗装が必要になります。スレート屋根の重量は20~25㎏/㎡くらいなので、和瓦の半分ぐらいです。 アスベスト(石綿+セメント/2006年以降は製造されていない) 非アスベスト(繊維+セメント)
  4. 金属系(カラー鋼板) ガルバリウム鋼板屋根の重量は3~5㎏/㎡くらいなので非常に軽くて耐震性も高いですが、雨音が響きやすいのが欠点です。 ガルバリウム鋼板(アルミニウム+亜鉛の合金) 亜鉛メッキ鋼板(トタン) ステンレス 銅板

また屋根瓦は形状により3タイプに分類されます。
J型(一般的な和瓦や桟瓦の形状で、J型は「Japan」のJから名付けられた)
F型(平板の形状の瓦で、F型は「Flat」のFから名付けられた) S型(スパニッシュ瓦やスペイン瓦とも呼ばれるS型に波打った形状の瓦)
どの屋根材を選択するかは予算や施工条件や立地環境や工法などを考慮して

1-A:J型桟瓦(陶器瓦)の劣化

陶器瓦の特徴

陶器瓦には『いぶし瓦』と『釉薬瓦』の2種類があります。
いぶし瓦は瓦を焼き上げた後に、瓦を燻して表面に膜を張らせて作ります。いわゆる素焼きの瓦のことです。
釉薬瓦は釉薬(塗料)を表面に塗り込んでから焼き上げて作ります。釉薬の種類によって黒色・灰色・緑色・茶色・青色などの釉薬瓦が作れます。
また陶器系瓦には一般的に下記のような特徴があります。

  • 重い(平均重量40~50㎏/㎡)
  • 雨風や湿気や騒音(雨音)に強い
  • 耐震性が低い
  • 耐用年数が長い(約50~100年)
  • 塗り替えの必要がない(釉薬瓦には塗装できない)
  • 一定の勾配が必要(4/10以上必要)

桟瓦葺きと本瓦葺き

従来は瓦の葺き方として丸瓦と平瓦を使用した本瓦葺きがありました。しかし本瓦葺きは非常に重く費用も掛かるため、一般家庭向きに桟瓦葺きが考案されました。
屋根の下地に桟木を打ち、そこに瓦を留めて施工していく事から桟瓦と呼ばれるようになりました。(桟瓦の形状が障子の桟のように見えることから桟瓦と呼ばれるようになったという説もあります)

J型桟瓦の劣化や損傷

桟瓦や桟瓦を葺いてある部位の劣化や損傷には下記のような原因が考えられます。

  • 漆喰の流出や緊結番線の緩みが原因で、瓦の葺き土が流出して瓦が浮きやすくなる。
  • 経年劣化による下地材(野地板)の反りや歪みが原因で瓦がずれてくる。
  • 建物の柱や梁や棟などの瑕疵が間接的に瓦に影響を及ぼす。
  • 台風や地震などの災害が瓦に許容量を超えた負担をかける。
  • 飛来物や設置物(温水器・アンテナなど)の影響で瓦が破損する。

仮に瓦の下に雨水が浸入しても、すぐに雨漏りする訳ではありません。それは瓦の下に防水紙(ルーフィングシート)が敷かれているからです。但し、防水紙といっても強度は低いので鋭利な物が接触すると簡単に破れてしまいます。(防水シートはタッカーも打てるしカッターでも切れる)特に壁用の防水紙(外壁と内壁の間にある)は、普通に手で破れますから、あくまでも最終的な防水の保険だと考えて下さい。

また防水紙の耐用年数は15年~20年ほどありますが、防水紙に直接紫外線が当たったり風雨に晒されたりしてしまうと、大幅に低下してしまいます。

つまり屋根瓦や外壁材の中に雨水を浸入させないことこそが、建物の寿命を健全に保つ上で非常に重要なことなのです。

J型桟瓦に隙間
J型桟瓦の隙間
J型桟瓦の隙間
補修用の板金に発錆
J型桟瓦の隙間
桟瓦がずれている
桟瓦がずれている
補習

1-B:桟瓦の破損や損壊

瓦の破損や損壊は雨漏りの原因や葺き土の流出にも繋がります。

そして葺き土の下の防水紙に直接雨や紫外線が当たってしまうと、大幅に耐用年数が低下してしまいます。特に築20年以上経過している住宅では、既に防水紙の耐用年数を超過してしまっている可能性がありますから注意が必要です。

桟瓦が破損するのには次のような原因が考えられます。

  • 建築当時に破損した。(施工ミス)
  • 飛来物や落下物が当たった衝撃で割れた。
  • アンテナや太陽光発電システムを設置する際に職人が瓦を破損させた。
  • 経年劣化や災害(地震・台風)の衝撃により破壊される。
  • 瓦の留め釘が発錆で膨張して、内側から瓦を破断させる。
  • 瓦の隙間に滞水した水分の、凍結膨張により瓦を破断させる。
  • 大き目の害獣が破断させた。

瓦の破損や破断を発見した場合は速やかに対策を施しましょう。

桟瓦の欠損
J型桟瓦の割れ

1-C:桟瓦の滲み

瓦から滲みが発生している場合には、幾つかの原因が考えられます。


例えば、

  • 桟瓦の頭部から谷部にかけて雨水の吸込みが排水されている。
  • 棟瓦から流出した葺き土の跡
  • 三日月漆喰(面戸漆喰)が流出した跡
  • 温水器やアンテナの錆が雨水で流れた跡
  • 緊結番線の錆が雨水で流れた跡
  • 鳥や害獣の糞尿の跡

等が多いですが、稀に原因不明の滲み跡を発見する場合があります。
原因不明の滲み跡は建物の重大な瑕疵に繋がる可能性もあるので、屋根に気になる滲みがある場合には検査や診断をお勧めします。

雨滲み
滲みが発生
滲みが発生

2:袖瓦(けらば瓦)の隙間や浮き

切妻の屋根の両端(けらば部位)に使用されている瓦を袖瓦と呼びます。

大棟から見て左端の瓦を左袖瓦、右端の瓦を右袖瓦と呼びます。

袖瓦と桟瓦との違いは、袖瓦には袖垂れが設けられています。

袖瓦は風雨の影響を受けやすいので、袖瓦には瓦を固定する為に番線が取り付けられているのが一般的です。

袖瓦を点検する際は、下記のポイントに注意してみて下さい。

  • 袖瓦の緊結(番線や野地板との固定方法や固定状況)
  • 上下の袖瓦との隙間
  • 下から見上げた場合の袖瓦と破風板の隙間(葺き土の流出)
  • 桟瓦との連結状態
  • 袖瓦の欠損や損傷状況
袖瓦ずれ
葺き土の流出
袖瓦に隙間
セメント瓦
袖瓦が流出

3:軒瓦(軒先瓦・万十軒瓦)

軒先に設置されている瓦を軒瓦と呼びます。
一般的に万十軒瓦が普及していますが、他にも一文字軒瓦や巴付唐草瓦(京花軒瓦)や花剣軒瓦や垂剣軒瓦などが存在します。

特に軒瓦は地面からも近い位置にあるので、定期的にチェックしてみて下さい。

  • 雀口の漆喰や葺き土の流出。
  • 軒瓦の緊結番線の劣化状況。
  • 軒瓦のずれや浮き。
  • 軒樋と軒瓦の位置関係。
軒瓦(一文字軒瓦)のずれ
積雪

4:鬼瓦の劣化や損傷

大棟や隅棟の先端に設置されている大きめの役瓦を鬼瓦と呼びます。
災害から建物を守る為の厄除けとしての役割と、屋根の装飾を司る役割を担っている瓦です。鬼瓦には鬼模様以外に雲や家紋や鯱などの模様が描かれたものが存在します。

鬼瓦の劣化や損傷には下記のような原因が考えられます。

  • 鬼瓦を固定している緊結の番線が外れている。
  • 鬼瓦を固定している緊結の番線が緩んで鬼瓦が傾いている。
  • 葺き土が流出して鬼瓦が不安定な状態になる。

鬼瓦は棟の先端に取り付けられているので、瓦が不安定な状態で地震や台風に遭うと地上まで落下してしまう危険性があります。また非常に重量もある瓦なので、落下すると二次災害に遭う可能性もあります。

不安定な鬼瓦があれば、早めの補修か交換をお勧めします。

鬼瓦
鬼瓦の傾斜

5:熨斗瓦の劣化

棟に積まれた平らな瓦を熨斗瓦と呼びます。
棟に当たった雨水を平部(桟瓦が葺いている部位)に流すための役割を担っている瓦です。
棟の一番下に葺く熨斗瓦を台熨斗瓦と呼び、その上に積まれた熨斗瓦を棟熨斗瓦と呼び、一番上に葺く熨斗瓦を天熨斗瓦と呼びます。天熨斗瓦の上には冠瓦が葺かれています。
建物の外壁との取合い部分にも熨斗瓦は使われています。
熨斗瓦の特徴は割って使うことが前提で作られていることです。
そもそも熨斗瓦は半分に割って棟の両端に並べる為に作られているので、割れやすいように中心に線が入っています。

熨斗瓦は漆喰や葺き土のみで固定されている個所もあるので、葺き土や漆喰の粘着性が低下すると、熨斗瓦の落下や崩壊に繋がる可能性があります。
昔は権力や富の象徴として熨斗瓦を高く積み上げられていましたが、耐震性を考えると熨斗瓦を高く積み上げる事は御勧め出来ません。
特に大回し工法で緊結されている熨斗瓦は不安定なので、大きな地震に遭う前に瓦の葺き替えか棟の葺き直し(ガイドライン工法)を施すか、何らかの緊結を施す事をお勧めします。

正常な状態
雨押え熨斗瓦がずれている
熨斗瓦から葺き土が確認
雨押え熨斗瓦の外れ
隅棟の熨斗瓦
熨斗瓦のずれ

6:冠瓦(雁振瓦)の劣化や損傷

棟の一番上に葺く瓦を冠瓦と呼びます。
冠瓦の下に葺く熨斗瓦と合わせて、棟瓦と呼ぶ場合もあります。
棟瓦(鬼瓦・冠瓦・熨斗瓦)は、積み上げた平瓦(桟瓦・袖瓦・軒瓦)の最上部に積むことで、建物に雨水を浸入させない役割を担っています。
その棟瓦の一番上に蓋のように冠瓦が設置されています。
大回し工法(旧工法)の場合は冠瓦が番線で棟に固定されていますが、この番線が緩んだり切れたりしてしまうと、冠瓦の欠損や落下に繋がる可能性があります。
ガイドライン工法(新工法)の場合はステンレスビスで固定されているので、旧工法よりも安定していますが、振動でビスが浮いてきたら注意が必要です。

冠瓦の欠落や欠損は棟の崩壊や雨水の浸入にも繋がるので、劣化現象や損傷を発見したら緊結や補修を施すようにして下さい。
冠瓦(紐丸瓦)
冠瓦(丸桟伏間瓦)の欠落
冠瓦(丸桟伏間瓦)の波打ち
冠瓦の隙間
留め釘の浮き
番線の緊結
冠瓦の留め釘
下り棟

7:外壁と瓦の取り合い部位

外壁材も屋根瓦も裏側には防水紙が敷かれているので、仮に雨水が壁内や屋根の隙間に浸入しても、室内まで雨漏りしないような仕組みになっています。
しかし屋根と外壁の取り合い部位では、きちんと雨仕舞が出来ていないと雨漏りの原因に繋がってしまいます。
外壁と屋根瓦の取り合いでチェックするポイントは
  • 外壁の捨て水切り板金を切り込まずに折り込んである。
  • 外壁用の防水紙と屋根瓦の防水紙の重ね方と重ねる順序が正しく施工されている。
  • 外壁用の防水紙が二重(先張り防水紙・上貼り防水紙)に張られている。
  • 防水紙が損傷や破損している。
等です。

但、非破壊では検査が難しいか不可能な場合が多く、確実に瑕疵を発見できる訳ではありませんが、
  • シーリング剤(コーキング剤)の劣化
  • 漆喰の経年劣化や流出
  • 葺き土の流出
  • 等は、目視で確認できるのでチェックしてみて下さい。
外壁と捨て水切り
水切り
シーリング剤
シーリング剤

8:番線の発錆や劣化

屋根瓦が外れたり崩れたりしない為に、番線で瓦が緊結(固定)されています。
番線は主に大棟・隅棟・袖瓦(ケラバ部位)・軒瓦などに施されています。
現在の標準的な緊結のガイドライン工法は、棟の下に補強用の芯材を棟木と平行に通して、その芯材に熨斗瓦や冠瓦を番線やステンレスネジで固定しています。
しかし旧工法は大回し工法と呼ばれ、番線で冠瓦と熨斗瓦を括る緊結の方法で、台風などには効果を発揮していましたが、耐震性が低い為に現在では使われていません。銅線で棟を大きく回して緊結することから大回し工法と呼ばれています。

つまり大棟や隅棟に緊結用の番線が括られていれば(番線が平行の場合やたすき掛けの場合がある)、旧工法なので耐震性は低いとお考え下さい。

桟瓦の緊結線が欠落
緊結番線に発錆
大棟の緊結番線に発錆
大棟の緊結番線の破断
緊結用の番線の外れ
大棟